ピロリ菌|福岡大腸カメラクリニック|消化器内科・内視鏡内科・胃腸内科

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ピロリ菌

ピロリ菌|福岡大腸カメラクリニック|消化器内科・内視鏡内科・胃腸内科

ピロリ菌(Helicobacter pylori:H.pylori)

ピロリ菌

ヒトの胃に感染する病原菌です。胃癌、胃潰瘍、急性胃粘膜病変、胃悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)、特発性血小板減少性紫斑病、大腸MALTリンパ腫、ピロリ関連ディスペプシアなど多くの病気の原因となる菌です。

感染経路

ピロリ菌は自然界の水に広く分布しています。井戸水にはピロリ菌がいると言われていますが、井戸水に限らず自然界の水であればどこにでもいる可能性があります。日本の水道水から出てくる水は、浄水場で複数工程のろ過と塩素添加が行われているためピロリ菌は含まれていません。つまり上水道の整備されていない地区ではピロリ菌感染機会が多くなります。あながち井戸水説は間違いではありませんが、同居の家族から垂直伝播する可能性もあり水だけが原因とは言えません。

ピロリ菌慢性感染の自然史

ピロリ菌は腸内細菌叢を形成していく時期である2,3歳までの新生児期から乳幼児期に感染し胃に慢性持続感染を起こすと考えられています。一部学童期にも新規感染が生じ得るとの報告もあります。慢性感染した場合、わずかな炎症を胃に起こし続けます。10代~20代にはリンパ濾胞が反応性に発達して鳥肌状の胃粘膜を呈する鳥肌胃炎となります。長い人生の途中、体調を崩してクリニックを受診し抗生剤や胃薬を処方されて偶然除菌されることもあるでしょう。そういうことがなく慢性感染が続くと30代から徐々に粘膜の萎縮が前庭部から体下部の小弯にかけて出現していきます。萎縮性胃炎は40代~50代では噴門を取り囲み大彎へと萎縮が広がっていきます。50代~60代で胃の全体に萎縮が及び胃酸分泌能が低下します。ちょうどそのころが胃癌発生リスクが最高となってくるため胃癌の好発年齢に突入してきます。萎縮性胃炎はある程度までは可逆性ですが、高度萎縮性胃炎となると除菌をしてもそのまま高度萎縮性胃炎であり続けます。ですから胃癌を少なくするためには若いころにピロリ菌を調べて除菌するのが最も効果的なのです。
一般の方は、20代で大病をわずらうことは少ないため胃カメラはまだ不要だろうと考えがちですが、その考え方では胃癌の十分なリスクコントロールはできません。
成人したらまず胃カメラとピロリ菌検査を受けていただきたいのです。20代ではまだ萎縮性胃炎が見られないこともあるため、萎縮性胃炎がないからと言ってピロリ菌がいないということになはなりません。ですので是非とも成人したら胃カメラとピロリ菌検査をセットで受けていただきたいのです。ピロリ菌検査が陽性であれば除菌治療をしておくことで将来の胃癌リスクを最も効率よく下げることができます。

成人してからの感染は慢性持続感染しない

成人してから胃の中にピロリ菌が入ってきても基本的に激しい免疫応答が起き、急性胃粘膜病変という急性胃炎を起こして胃から排除されます。基本的に慢性持続感染はしないと言われています。一過性に上腹部痛や心窩部不快感を起こして自然治癒します。

検査

7つの検査があります。そのうち過去の感染と現在の感染を区別せずに陽性となってしまう検査と現感染でしか陽性にならない検査があります。
普段からPPIやP-CABを常用している方では、偽陰性をさけるため少なくとも2週間はPPIやP-CABを休薬してから検査を行います(抗体検査の場合影響はありません)。PPIやP-CABにはピロリ菌に対する静菌作用があるため現感染を示す検査の30~40%が偽陰性になってしまうと言われています。いずれも感度が非常に高い検査ではなく、偽陰性が無視できないため「検査陰性→ピロリ菌はいない」とはなりません。
ピロリ感染性胃炎の所見である萎縮性胃炎を認めた場合は、除菌歴や検査歴がなければ現感染でないか確認のため検査を行う必要があります。ピロリ菌検査は2つまで保険適応となります。ぜひ異なる2つの検査で陰性を確認してもらってください。2つの検査がともに陰性であっても、偽陰性であることは稀にありますので、内視鏡上、びまん性発赤などピロリ菌現感染を強く疑う所見があった場合は3カ月以上あけて再検査するなり、慎重に内視鏡フォローアップを続けるなりしてください。

ピロリ菌現感染を示す検査

  • 尿素呼気試験
    薬を内服し一定時間後に呼気を採取する検査。感度98%,特異度97%
  • 迅速ウレアーゼ試験
    胃カメラ時の粘膜生検検体を試薬に漬けて反応を見る検査。
    除菌前 感度85~95%、特異度95~100%。
    除菌後 感度61~100%、特異度91~100%。
  • 生検検体の鏡検
    胃カメラで組織生検をして病理検査に提出する検査。
    HE染色 感度47~99%、特異度72~100%。
    ギムザ染色 感度87~96%、特異度79~99%。
  • 培養法
    薬剤感受性検査が可能です。感度68~98%、特異度100%。
  • 便中ピロリ抗原
    便検査。採取や提出が一苦労。
    治療前 感度96%、特異度97%。
    治療後 感度95%、特異度97%

既感染でも現感染でも陽性となるもの

  • 血清H.pylori抗体
    感度91~100%、特異度50~91%。
    除菌判定にはすぐに利用できないので不向きです。6カ月経過した段階での抗体価が半分以上低下していれば除菌成功と判断してもよいと言われています。
  • 尿中H.pylori抗体

1次除菌

アモキシシリン+クラリスロマイシン+PPIまたはP-CABで加療します。
パックとなった製品が飲み間違え防止に有用で臨床では頻用されています。

パック製剤:ラベキュア™、ボノサップ™

PPIを用いた時の除菌成功率は70~80%と言われていますが、P-CABを用いた場合の除菌成功率は90%を超えています。なのでボノプラザンに対するアレルギーなどボノプラザンを使用できない理由がない限り、ボノサップが使用されることが多いです。

2次除菌

アモキシシリン+メトロニダゾール+PPIまたはP-CABで加療します。

パック製剤:ラべファイン™、ボノピオン™

2次除菌の成功率も1次除菌の成功率と同様に、ボノプラザンが入ったボノピオンで行うと90%を超えています。

除菌判定

除菌治療は100%成功するものではありません。内服して終わりではなく、ちゃんとピロリ菌が消滅したかどうか調べる必要があります。前述のピロリ菌現感染を証明できる検査でピロリ菌の反応がでないことを確認することを除菌判定といいます。除菌判定はできれば除菌前に陽性を示した検査で行うのがよいです。しかし実際に臨床では胃カメラ時に迅速ウレアーゼ試験で現感染を証明し、除菌治療を行った方は迅速ウレアーゼ試験は行いません。胃カメラを短期間に行うメリットに見合わない侵襲やコストのことを考え、尿素呼気試験などの検査で行うことが一般的です。普段からPPIやP-CABを常用している方では、診断時と同様に偽陰性をさけるため2週間以上PPIやP-CABを休薬してから検査を行います。

除菌後胃癌検診

腸上皮化生が高度であれば3.7倍、萎縮が高度であれば9.3倍にリスクが高まると報告しています(Shichijo.S et al:Gastrointest Endsc.2016;84(4):618-624)。
平均観察期間9.9年での除菌治療群の胃癌発見頻度は2%(21/1030)であったと報告されています(Take.S et al:J Gastroenterol.2007;42:21-27)。
除菌後はすぐには胃癌抑制効果が出現しないことが分かっており、当院では除菌後10年は毎年胃カメラを受けるよう推奨しており、10年経過したら2年毎でもよいと説明しています。平均7.3年の経過観察期間では胃癌発生率に有意差は見られず、15年までに経過観察期間を延ばすと胃癌抑制効果が見られたという報告があります。メタ解析での除菌による胃癌相対危険度は0.66であったと報告があり、除菌によって長期経過すると44%のリスクが下がると考えられます。

胃カメラと胃バリウム透視とどちらがよい?

当院としては胃カメラを推奨します。特にピロリ菌除菌後においては胃癌は診断が非常に難しいため透視よりも画像強調診断が可能な胃カメラをお勧めします。バリウムは検査後下剤の服用が必要であり、腹部膨満感などの有害事象も多いです。対して胃カメラの場合は熟練医が安全性を担保した上で適切な麻酔下に行う場合は合併症も低率で明らかに検査が楽です。しかも異常が疑われれば組織生検ができるのも胃カメラのメリットです。胃バリウム透視で異常が疑われると、真の異常ではなくても胃カメラ検査での確認が結局必要となってしまいます。何らかの理由で胃カメラが受けられない場合には、胃バリウム検査でもよいので検診を受けるに越したことはありませんが、胃カメラが受けられるのであれば胃癌検診は胃カメラをお勧めします。