大腸内視鏡下シンバイオティクス散布(腸内フローラ調整)|福岡大腸カメラクリニック|消化器内科・内視鏡内科・胃腸内科

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大腸内視鏡下シンバイオティクス散布(腸内フローラ調整)

大腸内視鏡下シンバイオティクス散布(腸内フローラ調整)|福岡大腸カメラクリニック|消化器内科・内視鏡内科・胃腸内科

大腸内視鏡下腸内フローラ調整

日常行う腸活(プロバイオティクスやシンバイオティクスなどの整腸剤の内服)の延長線上にある一つのオプションとなる方法です。プロバイオティクス等の普段からの内服は有効なのですが、大腸カメラを行う際にしかできない積極的腸活の方法です。腸内洗浄後に善玉菌を直接回腸末端から大腸全域に散布できる唯一の方法です。

腸内細菌叢のディスバイオーシスが引き起こす異常

腸内細菌叢の乱れのことをディスバイオーシスといいます。悪玉菌が増えて善玉菌が減る状態と簡単に理解していただければよいと思います。

過敏性腸症候群、慢性便秘症、慢性下痢症、機能性ディスペプシアなどの機能性胃腸疾患の原因の一つが腸内細菌叢のディスバイオーシスだと言われています。

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)、食物アレルギーや運動誘発アナフィラキシーなどのアレルギー疾患、関節リウマチ、クロストリジウムディフィシル感染症、COVID-19をはじめとする感染症に対する免疫力低下などの原因の一つが腸内細菌叢のディスバイオーシスだと言われています。

糖尿病、肥満症、脂肪肝、脂肪性肝炎、骨粗鬆症などの代謝疾患の原因の一つが腸内細菌叢のディスバイオーシスだと言われています。

次世代の期待されている善玉菌としてAkkermansia(アッカーマンシア)があります。今後の創薬に注目です。

食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、膵癌などの発生や免疫チェックポイント阻害薬の有効性にも腸内細菌叢のディスバイオーシスが関与していると言われています。TanoueらはPD-1抗体の抗腫瘍効果を高める11菌種を報告し(Nature,565:600-605,2019)、腸内細菌叢から抗腫瘍薬の効果を予測し薬剤を選択できる未来が現実味を帯びてきました。世界中がこの分野に着目しています。

脳腸相関という言葉があるように、脳と腸は密接に関与していることが古くから知られていました。うつ病や認知機能異常、多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、自閉症関連疾患などに腸内細菌叢のディスバイオーシスが関与していると言われています。

慢性腎臓病(CKD)、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳梗塞や脳出血などの脳卒中、高血圧症といった動脈硬化に関する疾患の原因の一つが腸内細菌叢のディスバイオーシスだと言われています。

不妊症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、子宮内膜症、細菌性膣炎などの婦人科疾患の発症にも腸内細菌叢のディスバイオーシスが関与していると言われています。

アスリートのパフォーマンス低下、慢性疲労症候群、不眠などの睡眠リズム障害にも腸内細菌叢のディスバイオーシスが関与していると言われています。

シンバイオティクスとは?

シンバイオティクス=プロバイオティクス+プレバイオティクス」となります。
プロバイオティクスとは、腸内細菌叢の内、いわゆる善玉菌と称される細菌を製剤化したもので、一般的に整腸剤と呼ばれるものです。ビオフェルミン™、ミヤBM™、ビオスリー™などが医療機関で処方されることの多いプロバイオティクスです。腸内細菌叢とは腸内に存在する細菌のことで、様々な種類と役割があります。体にとってよい作用をする細菌を善玉菌、悪い作用をする細菌を悪玉菌、その中間を日和見菌だと解釈してください(図1)。日和見菌は善玉菌が主権を握る環境ではよい作用を、悪玉菌が主権を握る環境では悪い作用をすることがあります(図2)。

腸内フローラのイラスト
図1

腸内フローラのシーソー
図2

腸内細菌叢は宇宙空間の星々のようなもので未解明のことが多いですが、2016年頃から腸内細菌叢の16SrRNAメタゲノム解析が始まり、膨大なデータが蓄積されてきました。そのため、近年腸内細菌叢に関する研究が目覚ましい進歩を見せており、新しいことが次々に解明されて行っています。その流れを受けてか世間でも「腸活」がブームになっていると思います。著名YouTuberの方々が取り上げたこともあって、YakultのY1000™がコンビニやスーパーの陳列棚から姿を消し、なかなか手に入らないという社会現象が起きたのは記憶に新しいかと思います。腸内フローラのディスバイオーシスが便秘や過敏性腸症候群などの病態を形成する一因でもあり、精神状態、認知機能、美容、免疫力など全身の様々な機能とも密接に関係していることが分かってきたため世間も注目し始めているのだと思います。ストレス社会の現代では過敏性腸症候群やそれに近い機能性胃腸疾患の症状を訴える方の数が非常に多く、一般臨床において症状を訴えて消化器内科を受診する患者様の約8~9割が機能性胃腸疾患とも言われておりますので、腸内フローラの重要性は改めて語るまでもありません。
プレバイオティクスとは、食物繊維などの細菌代謝基質のことです。簡単に言うとプロバイオティクスの餌です。

当院で散布しているシンバイオティクス

株式会社Yakultのシンプロテック™です。こちらの製品は、プロバイオティクスの乳酸菌シロタ株とビフィズス菌BY株、及びプレバイオティクスのガラクトオリゴ糖で構成されます。

経口的投与における3つの問題点

内服または経口摂取されたプロバイオティクス(善玉菌)は①胃酸による殺菌作用、②小腸内通過時のpH変化をくぐり抜けて大腸まで到達しなければなりません。さらに元々悪玉菌が多い環境下に善玉菌が入っても③悪玉菌に増殖を抑制されます。そのためプロバイオティクスは継続的に飲み続けなければ効果が期待できません。
これら3つの問題点を解決できるのが大腸内視鏡下のプロバイオティクスの散布です。

③に対して:悪玉菌を含めた腸内全体の細菌量を減らす→腸内洗浄
②に対して:大腸内に直接散布する→大腸内視鏡下プロバイオティクス散布

もちろん製品化されたプロバイオティクスは経口投与である程度の効果を示すことが検証されているため製品化されているわけですが、大腸内視鏡下プロバイオティクス散布を併用することでより高い腸内フローラの調整効果が得られることが期待できます。

大腸内視鏡下シンバイオティクス散布のエビデンス

大腸内視鏡を行ったあと体調がよくなったという声を患者様からいただくことがあります。
それは腸内洗浄が悪玉菌を含め腸内全体の細菌量を減らし、その後善玉菌が優位に増殖してきたからだと考えられます。逆に大腸内視鏡検査後にしばらく調子が悪かったというお声もいただくことがあり、それはその後悪玉菌が優位に増えてしまったからではないかと考えられます。そうなると大腸内視鏡検査時にプロバイオティクスを散布することは理にかなっていると言えます。しかし、この大腸内視鏡下プロバイオティクス散布に関して直接のエビデンスを作る臨床試験は行われておらずこれから続々登場していくこととなると考えられます。潰瘍性大腸炎マウスモデルにプロバイオティクスを注腸投与すると活動性炎症が制御できたと報告があります。経口プロバイオティクスでの腸内フローラ調整が免疫、美容、皮膚バリア、腸管の局所炎症、認知機能、各種臓器機能の改善をもたらすという報告は多数あります。
またヒトでのエビデンスとしては、潰瘍性大腸炎、クローン病、再発性クロストリジウムディフィシル感染症などで健常人の便を移植する方法(糞便移植法)が古くから欧米でおこなわれています。これは腸内細菌叢移植(fecal microbiota transplantation : FMT)ともよばれています。しかし、投与経路、投与量、導入回数、ドナー選定など未だ未確立の治療法であるため本邦において糞便移植法は数施設で臨床試験が開始されたばかりです。

当院では経口法では安全性と有効性が確認されたプロバイオティクス製剤を使用しております。しかし、大腸内視鏡下投与での臨床試験等で安全性や有効性を検証した治療ではありません。その点を十分ご理解いただいた患者様に対して自由診療として行っております。

糞便移植法には免疫抑制者でESBL産生大腸菌による死亡事例といった重篤な有害事象が報告されているため、臨床試験でもESBL産生大腸菌やC.difficileなどの悪玉菌が含まれていないことを確認してすすめるように手順が組まれております。

当院ではドナー糞便を用いる糞便移植法は確立された治療法ではないため行っておりません。あくまで安全性に問題がないと考えられるシンバイオティクス散布までになります。実臨床で糞便移植法は限られた疾患の治療選択肢の一つとして残るのが限界だと思います。

私自身も、せっかく数年に一度の大腸内視鏡検査を受けるという機会であれば、効率的に大腸に善玉菌を散布して腸内フローラ調整を行ってもらいたいと思いますのでご提案させていただいております。

大腸内視鏡下散布の実際の方法

腸内フローラ調整(大腸内視鏡下プロバイオティクス散布)は自由診療です。保険診療と混合診療が禁止されているため、自由診療である健診大腸カメラの際の追加オプションとなります。大腸カメラを挿入し、奥(盲腸)から観察が終了した部位にプロバイオティクスを散布してきます。

大腸内視鏡下散布01

大腸内視鏡下散布02

大腸内視鏡下散布03