腸内フローラ調整
腸内フローラ調整
ヒトの消化管内には膨大な数の腸内細菌が存在しています。その腸内細菌の総体を腸内細菌叢や腸内フローラといいます。ヒトで腸内細菌数が最も多いのは大腸で、その次が口腔内です。大腸内には100兆個の細菌が、口腔内には1000億~1兆個の細菌がいると言われています。
この腸内フローラは体内で様々なことをしており、ヒトの健康にとって有益なことをしている菌を俗に善玉菌といいます。ビフィズス菌や乳酸菌などは善玉菌で一般の方でも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。まだまだ未知のことが多い腸内フローラですが、2010年以降、次世代DNAシーケンサーの登場と技術の発展で、新知見が次々に得られています。細菌の持つ16SrRNAをPCRで増幅し、次世代シーケンサーで解析した結果を専用ソフトで統計分類解析したり、菌種同定解析をしたりして、腸内フローラのプロファイル化を行えるようになりました。全メタゲノム解析による機能ベースの細菌叢のプロファイル化が行われるようになり、腸内フローラの形成過程を細かく観察したり、世界中の人々の腸内フローラを俯瞰的に見たりすることが可能となりました。そこから発見された新たな善玉菌を創薬に生かそうとする研究も盛んにおこなわれています。
腸内フローラは全身の様々な臓器機能や代謝、心と関連があり、その異常が病気の発生と密接に関係していることが分かってきました。腸内フローラを整えると病気の症状が改善したり、心の症状が取れたりします。腸内フローラは悪玉菌と善玉菌のバランスのもとに全身の健康を司っているのです。腸内フローラの悪玉菌を減らして善玉菌を増やしてあげようという考え方が腸内フローラ調整です。整腸剤というのも腸内フローラ調整の一種です。整腸剤とは善玉菌を製剤化したものでプロバイオティクスと呼ばれます。経口摂取することで大腸内の善玉菌量を増やすために整腸剤は作られています。他にも糞便移植法という腸内フローラ調性の方法があり、潰瘍性大腸炎、重症の偽膜性腸炎などで古くから行われています。
当院で行う腸内フローラ調整には、大腸カメラを用いて腸内フローラ調整を行うという特徴があります。前処置用下剤と大腸カメラを用いることは、効率よく腸内フローラを調整することを可能としています。詳しい方法は後述します。
腸内フローラは様々な体の機能と関連があります。肥満、糖尿病、脂質代謝異常症、高尿酸血症などの代謝異常とも関連があり、原因の一つだと考えられています。認知機能などの脳機能とも関連しており、認知症の発症にも関与しています。うつ病などの気分障害や不安神経症などの精神心理障害とも関連があります。過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアなどの機能性胃腸疾患や潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患とも関連があると言われています。免疫機能とも関連しており、それを介して悪性腫瘍罹患リスクや感染症のリスクにまでも影響があります。アスリートの身体機能を向上させる腸内フローラも報告されています。また、特定の細菌の組み合わせが免疫チェックポイント阻害薬の効果と関連することが報告されています。皮膚のバリア機能や皮膚の炎症とも関連があり、アトピー性皮膚炎の原因の一つが腸内フローラの異常といわれています。そういったことで美容とも関連があり、美の追求には腸内フローラ調整も重要です。
1
腸管前処置(下剤)で消化管内を空にする
2
大腸カメラ検査時に回腸末端から直腸まで順次シンバイオティクスを散布する
この手順がなぜ理にかなっているかご説明します。
それにはプロバイオティクスを経口摂取する場合の課題について知る必要があります。
内服または経口摂取されたプロバイオティクス(善玉菌)は①胃酸による殺菌作用、②小腸内通過時のpH変化をくぐり抜けて大腸まで到達しなければなりません。さらに元々悪玉菌が多い環境下に善玉菌が入っても③悪玉菌に増殖を抑制されます。そのためプロバイオティクスは継続的に飲み続けなければ効果が期待できません。
③に対しては、悪玉菌を含めた腸内全体の細菌量を減らすことができるStep1の腸内洗浄が有効です。①②に対しては、大腸内に直接散布する大腸内視鏡下プロバイオティクス散布が有効です。
腸内洗浄と大腸内視鏡を利用すると効率よくプロバイオティクスを大腸に届けることができます。