潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とクローン病を合わせて炎症性腸疾患と総称します。原因不明の炎症が消化管におきて生活の質(QOL:quality of life)を低下させうる疾患です。クローン病は10~20代の若年発症が多く全消化管に病変をきたしえる疾患ですが、潰瘍性大腸炎は幅広い年齢層に発症して、消化管外病変はありますが、消化管の中では炎症の範囲は大腸に限局するため別疾患に分類されています。しかし、潰瘍性大腸炎/クローン病のオーバーラップもあり、診断に悩む事例が一定数存在しています。
炎症性腸疾患のなかでも潰瘍性大腸炎は稀な疾患ではなくなってきています。潰瘍性大腸炎の原因は単一ではなく遺伝的要因、環境要因、ストレス、腸内細菌叢、消化管アレルギーなど様々な要因が重なって発生する疾患だと考えられています。昔は重症度に関わらず特定疾患でしたので、公費で治療が受けられていましたが、近年軽症の潰瘍性大腸炎が急増しており、現在では中等症または重症のみが公費での治療対象となっております。軽症の潰瘍性大腸炎はcommon diseaseといえるほど消化器内科では頻繁に遭遇する疾患となっており、誰しもがかかりえる疾患になっています。痔だと勘違いしてしまう程度の時々の血便が唯一の主訴であったり、便潜血大腸癌検診を契機に無症候性に発見されたりする場合が増えてきています。軽症の潰瘍性大腸炎は自覚症状に乏しいのですが、無治療のままだといつか増悪してしまうことがしばしば経験されるため治療介入はしておいた方がいい疾患です。治療のジレンマですが、QOLが低下するような中等症以上になれば公費で治療費が無料になりますが、軽症から治療介入しているとなかなか中等症以上にならないためいつまでも保険診療で治療するしかないのです。とは言えやはり、人生の生活の質は多少のお金には代えられないと考えるべきです。重症になると通常の学校生活、仕事、結婚生活、趣味などのlife stageが健常人のように歩めなくなりいくら治療費が無料だからといっても喜ぶことができません。大した自覚症状がなくても治療介入はしておいた方がよいと思います。
診断のきっかけは血便であることが多いです。最近では便潜血陽性を契機に診断される機会が増えてきています。いずれにせよ大腸カメラ検査を受けて初めて診断に一歩近づきます。潰瘍性大腸炎を疑う内視鏡所見が見られた場合、似たような所見を呈することのある他疾患の除外が必要となります。炎症のある大腸粘膜の生検で潰瘍性大腸炎に特異的な所見が得られれば潰瘍性大腸炎と診断できますが、あくまでも他疾患の除外は必須となります。具体的には、薬剤性腸炎、放射線腸炎、感染性腸炎などを始めとする他疾患の除外が必須であり、そのために詳細な病歴や血液検査、大腸粘膜培養などの検査が必要となります。他疾患を除外した上で、潰瘍性大腸炎に特異的な病理組織所見が大腸粘膜の生検組織から得られた場合に確定診断できます。除外診断ができたら臨床診断することは可能ですが、実際には物事を確定させることよりも物事を完全に否定することの方が難しいため、除外診断の場合は常に他疾患の可能性を念頭に置いて診療にあたる必要があります。
潰瘍性大腸炎の診断には大腸カメラが必須の検査になります。
血管透見像消失、細顆粒状粘膜、発赤、アフタ、小黄色点、粗造粘膜、びらん、小潰瘍、胃出血性粘膜、粘血膿性分泌物付着、広範な潰瘍、著名な自然出血などの所見があります。
内視鏡上の粘膜所見の程度を表す指標として簡便なMES(Mayo endoscopic subscore)がしばしば用いられ、MES0/MES1を目指して治療をしていきます。
MES0 | 正常または非活動性所見 | 発赤なし、正常な血管透見像 |
---|---|---|
MES1 | 軽症 | 発赤、血管透見像の減少、軽度脆弱 |
MES2 | 中等症 | 著明に発赤、血管透見像消失、脆弱、びらん |
MES3 | 重症 | 自然出血、潰瘍 |
軽症、中等症、重症の3段階で診断されます。
軽症は下記軽症項目の6項目すべてを満たす場合です。
重症は下記重症項目の1)および2)の他に3)または4)を満たし、かつ6項目中4項目以上を満たす場合です。
中等症は軽症と重症の間になります。
重症 | 中等症 | 軽症 | |
---|---|---|---|
1)排便回数 | 6回以上 | 重症と軽症の中間 | 4回以下 |
2)顕血便 | (+++) | (+)~(-) | |
3)発熱 | 37.5度以上 | (-) | |
4)頻脈 | 90/分以上 | (-) | |
5)貧血 | Hb10g/dL以下 | (-) | |
6)血沈またはCRP | 30mm/h以上 3.0mg/dL以上 |
正常 |
現在では様々な治療選択肢があり、重症度に応じて治療選択肢が用意されています。
経口α4インテグリン阻害薬のカロテグラストメチル(カログラ™)の登場や、JAK阻害薬(トファシチニブ(ゼルヤンツ™)、フィルゴチニブ(ジセレカ™)、ウパダシチニブ(リンヴォック™))や生物学的製剤(インフリキシマブ(レミケード™)、アダリムマブ(ヒュミラ™)、ベドリズマブ(エンタイビオ™)、ウステキヌマブ(ステラーラ™))は近年登場した新しい治療選択肢で潰瘍性大腸炎の治療法、治療成績を向上させました。
昔は5-ASA製剤とステロイドしか選択肢がなかった時代から多数の治療選択肢を手にした今、潰瘍性大腸炎患者様の治療成績を向上させるため使用時期や組み合わせに関する知見が蓄積されてきています。使用に際してみるべきバイオマーカーの開発なども日進月歩の状況です。保険収載されて、便中カルプロテクチンや血中LRGを指標にしたTreat to targetが近年広く行われるようになりました。
福岡大腸カメラクリニックの医師は大腸癌だけでなく潰瘍性大腸炎の検査・診断・治療の経験も豊富です。
患者様が健常人と同様の生活を送れるように維持することです。
そのためには指標が必要です。症状だけを見て治療内容を修正するだけでは不十分で様々な指標を参考にしながら治療内容を見直すというのがTreat to targetという概念があります。前述のMESといった内視鏡所見の程度、LRGや便中カルプロテクチンといったバイオマーカー、血液検査所見(CRPや血沈)などを参考に治療内容を強化したり弱めたりする時期を逸しないようにして、副作用や治療による制約を最小限にしながら、かつ最大限に患者様が健常人と同様の生活が送れるようにするという目標を達成できるようにしています。