
SSL
SSL
SSLとは従来SSA/Pと呼ばれていた大腸ポリープです。大腸癌のほとんどは何らかのポリープから発生しますが、その一つがSSLです。
主たる経路は大腸腺腫(Adenoma)から癌細胞が発生するAdenoma-Carcinoma sequenceと呼ばれる経路です。多くの大腸癌は大腸腺腫から発生していると考えられています。
2番目に多い経路がSSLから癌細胞が発生するSerrated pathwayと呼ばれる発癌経路です。大腸腺腫もSSLもどちらも同じ大腸癌と呼ばれる悪性腫瘍に進展しえる癌化のポテンシャルを持つ腫瘍性ポリープですが、大腸腺腫とSSLは異なる遺伝子異常を基に発生するため大腸癌の性質も異なります。SSLからの大腸癌は腺腫からの大腸癌より予後の悪い大腸癌になることが多いと考えられています。
SSL自体、従来から切除適応がないと言われていた過形成性ポリープと内視鏡上完全に区別できないことがあるためSSLの内視鏡所見を熟知していない内視鏡医が行うと過形成性ポリープとして経過観察され、次の内視鏡検査までの期間(interval)に大腸癌を発症してしまうことがあります。SSLの質的診断は難易度が高いのです。稀なことではありますが、当該患者様からすると納得のいかないこととなります。また、質的診断だけでなく存在診断すら見逃されていることもあります。大腸腺腫と比較すると、扁平病変がほとんどで、SSLは周囲粘膜と同色調で、粘膜下の血管透見が不透明化する所見のみしか白色光では呈さないため、存在診断自体が難しいことがあります。ジャングルの木々の中に擬態したカメレオンを探し当てるようなものです。しかも内視鏡は動的な検査であるためSSLの存在診断には、走りながらジャングルの中から擬態したカメレオンを見つけられるような動体視力と集中力と直感が求められます。
interval cancer(定期内視鏡検査間隔内で見つかる大腸癌)といって内視鏡医の中でもよく討議されています。SSLからのinterval cancerに当たらないようにするためにはSSLを診断できる大腸内視鏡専門医に検査・ポリープ切除を行ってもらうことが非常に重要です。このため大腸内視鏡検査は一般診療の隙間時間に大腸カメラを行っているような一般の消化器内科クリニックではなく大腸内視鏡に特化した専門クリニックで受ける方が安心です。施設として大腸内視鏡件数が多いところよりも検査医師数で割った、1人の医師が担当する大腸カメラ件数が多い施設で受けることが非常に重要です。年間で600件以上のペースで大腸カメラ検査を行っている医師に検査を行ってもらうことが大切だと思います。胃カメラはAIで診断能を補完できますが、大腸カメラは検査をする医師の技量と経験によって死角の多さが異なるためいくらAIが発達してもポリープの診断能には検査する医師毎に差がでてきてしまいます。しかもまだAI内視鏡がSSLの診断まで十分にできる段階に至っていません。
インターバルキャンサーは定期大腸内視鏡検査の間に発見される大腸癌のことですが、その原因の一つがSSLの見逃しです。前述のようにSSLは存在診断も質的診断も難しいポリープです。しかもSSLは大腸腺腫と異なり悪性度の高い癌細胞の発生母地となることがあるため、一つ癌細胞が発生してから次の内視鏡検査日までの間に進行癌に進展してしまうこともあります。これらが相まってSSL由来の大腸癌の予後が悪いと考えられています。他にもインターバルキャンサーの原因にはポリープを介さない大腸癌というものがあります。具体的には正常細胞の直接癌化や顕微鏡的ポリープ(内視鏡では見えない細胞数の少ない腫瘍細胞のクラスター)からの癌化、潰瘍性大腸炎や慢性痔瘻からの炎症性発癌などの予防困難な大腸癌がわずかながらに存在するためインターバルキャンサーを無くすことはできません。しかし、SSLからのインターバルキャンサーは大腸内視鏡検査に特化した医師に行ってもらうことである程度は防ぐことができると考えられます。
上段は同一病変のSSLを白色光(WL)、特殊光(TXI・NBI)で見ています。
下段は同一病変の過形成性ポリープを特殊光(TXI・NBI)で見ています。
SSLとHPはいずれも扁平な病変が多く、周囲に溶け込むような見た目であるため慣れないと発見することが難しいポリープです。しかもSSLとHPを見分けることも非常に難しいのです。
表面構造、つまりは腺管開口部(pit)の形状の違いと拡張した微細血管構造が見られるかどうか、表面の粘液の多さなどが内視鏡的質的診断をする上で重要なポイントとなります。