痔|福岡大腸カメラクリニック|消化器内科・内視鏡内科・胃腸内科

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痔疾患

肛門から出血し、肛門痛を伴ったり、隆起物ができてきたりすると一般的に痔と一言で言われますが、実は痔にもたくさんの種類があり、それぞれ症状も治療法も異なります。広義には「肛門の病気」というあいまいな意味で使用されています。痔疾患には、外痔核(ないじかく)、内痔核(ないじかく)、痔瘻(じろう)、裂肛(れっこう)、肛門ポリープ、肛門癌などがあります。痔疾患を理解する上で直腸・肛門の解剖学的知識が必要となります。

直腸・肛門の解剖

直腸・肛門の解剖

肛門縁から歯状線までの間を(解剖学的)肛門管といい、直腸にためられた便が排便時に通過する管腔です。ここは直腸固有筋層から連続する内肛門括約筋と外肛門括約筋という二つの筋肉によって締め付けられています。内肛門括約筋は直腸の筋肉であって随意的に動かすことのできない平滑筋で、自律神経による調整を受けています。外肛門括約筋は随意筋である横紋筋からなります。歯状線より内側の下部直腸粘膜下層には内痔静脈叢があります。また、歯状線より外側の(解剖学的)肛門管の粘膜下には外痔静脈叢があります。知覚神経は歯状線の外側にはありますが、内側には存在しません。

外痔核(がいじかく)external hemorrhoid

外痔静脈叢が怒張して静脈瘤化したものが外痔核です。歯状線より外側には知覚神経が存在するため外痔核が怒張して炎症を起こすと強い肛門痛を引き起こします。
外痔核は怒張して排便時に切れたり、炎症が起きて脆弱になったりすると出血の原因となります。出血する外痔核を出血性外痔核といいます。怒張して静脈炎を起こすと疼痛や痒みや腫脹の原因となります。外痔核内に血栓ができて強い炎症を痔核に起こし強い肛門痛を起こす疾患が血栓性外痔核です。血栓性外痔核は痔核を切開し痔核内の血栓を摘除する治療法が行われます。大腸死菌とヒドロコルチゾンというステロイドを混ぜた外用薬の強力ポステリザンはよく痔疾患で使用されますが抗炎症作用を介して疼痛を和らげてくれます。また肉芽形成促進作用を介して痔核出血を改善させる効果があります。
ALTA療法という痔核を注射で治す方法がありますが、これは外痔核には効果が期待できず適応はありません。

内痔核(ないじかく)internal hemorrhoid

内痔静脈叢が怒張して静脈瘤化したものが内痔核です。内痔核は歯状線の内側にとどまれば痛みを起こしませんが、大きくなって(外科的)肛門管内の粘膜下に進展すれば痛みの原因となってきます。内痔核の炎症や出血にも強力なポステリザン塗布などの保存的治療が行われますが、食生活や排便習慣の改善も重要です。改善に乏しい場合は内痔核内に血栓を作って閉鎖してしまう薬剤(ジオン注™)を注射するALTA療法がおこなわれます。比較的即効性があり、手術に比べて入院も不要で合併症が少ないためよく行われます。しかし手術に比べ再発は多く、難治性の場合は最終的に手術が行われます。
一般的にGoligher分類(ゴリガー分類)というもののGradeに応じて治療法を決めます。

  • Goligher Ⅰ度 腫れているが、飛び出していない
  • Goligher Ⅱ度 排便時に飛び出すが、自然に戻る
  • Goligher Ⅲ度 排便時に飛び出すが自然に戻らず指で戻せる
  • Goligher Ⅳ度 排便時以外にも常に飛び出している

嵌頓して血流障害を伴う複雑性内痔核

内痔核の治療

痔瘻(じろう)

痔瘻とは下部直腸または肛門管内から肛門近傍の皮膚や骨盤内にトンネルができる病気です。直腸内の細菌が入り込むため出口がなければ肛門周囲膿瘍や骨盤内膿瘍となります。これらが、肛門近傍の皮膚に自壊して出口(瘻孔)を作りいつまでも瘻孔から汁(浸出液)や膿が出続けます。瘻孔がふさがると肛門周囲膿瘍になってまた自壊して軽快することを繰り返します。基礎疾患のない痔瘻もありますが、若年者の痔瘻を見たら常にクローン病が隠れている可能性を疑わなければなりません。クローン病とは全消化管に原因不明の炎症をきたす慢性の炎症性腸疾患です。クローン病では痔瘻の存在は将来人工肛門になるリスクが高い方であることを示唆するため、早期に十分な治療を導入し、よい状態を維持しなければなりません。痔瘻も治療が比較的容易な単純な形の痔瘻から、治療が難しい複雑な形のものまでさまざまです。一般的に低位筋間痔瘻(下図b)という単純なものが多く、治療も比較的容易です。一方クローン病などでは高位筋間痔瘻や骨盤内へ瘻孔が及ぶなど複雑な形態の痔瘻を呈することがあります。慢性の痔瘻は長期経過を経て痔瘻癌を起こすことがあり、基本的に治療をしておくべき疾患です。

痔瘻がイメージできないという方は見たほうが理解しやすいと思います(生々しい画像ですので見たくない方は飛ばしてください)。肛門に指を入れて圧迫すると肛門近傍の皮膚から膿(うみ/のう)がでるという症状が痔瘻や肛門周囲膿瘍の症状です。瘻孔を見つけて棒(ブジー)を通すとエントリーが分かります。内視鏡画像で痔瘻の実際を供覧します。

痔瘻画像01

内視鏡を直腸内で反転したときに見える下部直腸内の内視鏡写真です。
痔瘻の入り口である1次口が見えます。炎症のため歯状線は不明瞭化しています。

痔瘻画像02

内視鏡で吸引し陰圧をかけると痔瘻内に貯まっている血液交じりの膿汁がでてきます。

痔瘻画像03

こちらは肛門管内の痔瘻の出口、2次口です。混濁した桃色の膿汁が排泄されてきます。

痔瘻画像04

内視鏡写真がどういうイメージかわかりにくいと思いますのでイラストで示します。このように直腸内で内視鏡を反転して1次口をみた写真が画像①②です。反転せず直視で2次口をみた写真が画像③です。紫で示した膿の通り道が痔瘻で膿が貯留している部を肛門周囲膿瘍といいます。

裂肛(れっこう)/肛門ポリープ

裂肛とは肛門管の粘膜に亀裂が入ることです。1次性は硬便の排泄や頻回の下痢などによる肛門の外傷に起因するもので基礎疾患は有しません。2次性は過去の肛門の治療歴やクローン病や結核やサルコイドーシス、HIV感染や梅毒感染などを基礎に持つものとなっております。症状は涙が出るほどの強い痛みを排便時に自覚し、繰り返します。痛みは数分から数時間持続します。腸が動くたびに痛むため、水分を摂るのを控えるようになり、さらに便秘になり、裂肛が悪化するという悪循環に陥ります。
治療は基本的に保存的治療です。便秘にならないように水分を十分とり、食事生活習慣を改善させることが基本となります。肛門に軟膏を塗ったりしてセルフマッサージを行うことも有効です。急性期は困難ですが適度な運動習慣も便秘の改善に有効です。適切に便秘薬で便の硬さや形状を正常化させることも重要ですが、市販の便秘薬は耐性や大腸メラノーシスを起こしえる薬が多いため医師に処方してもらい調整した方がよいです。
急性裂肛と慢性裂肛では肛門の所見が異なります。急性裂肛では創縁が鋭く、慢性裂肛では盛り上がっています。慢性裂肛では外側に見張りイボ、内側には肥大肛門乳頭という肛門ポリープができてきます。肥大肛門乳頭は小さいことが多いですが、非常に巨大となって癌と鑑別を要するようなものもあります。

裂肛

肛門癌(こうもんがん)

最初は痔だと思っていましたと言われることが多い致命的となりえる疾患が肛門癌です。肛門癌は肛門管粘膜に発生する上皮性悪性腫瘍です。脱肛や痔核や裂肛と見間違われることが多く初期には診断が難しい場合があります。症状は排便時の肛門痛や持続痛、出血が多く、巨大になると悪臭や腸閉塞をきたします。一般的に肛門癌は大腸癌に比べて早期発見されなければ予後が悪い疾患です。特に原因のない肛門癌もありますが、HIV患者やHPV感染に続発する肛門癌もあります。
早期の肛門癌は痔と見間違えられやすく相当数が内視鏡検査でも見逃されていると考えられます。