どのタイプのIBSにも使用されることのある基本治療薬から解説していきます。
消化管運動機能調整薬
マレイン酸トリメブチン(セレキノン™)がIBSに対して保険収載されています。
保険適応外ですが、ドーパミンD2遮断薬であるメトクロプラミド(プリンペラン™)やドンペリドン(ナウゼリン™)、コリンエステラーゼ阻害薬であるネオスチグミン(ワゴスチグミン™)、両者の作用を持つイトプリド(ガナトン™)があります。
トトリメブチンは末梢性オピオイドμ受容体・κ受容体作動薬で、交感神経活性化状態ではアドレナリンの分泌を抑制し消化管運動を亢進させ、逆に副交感神経活性化状態ではアセチルコリン分泌を抑制し、消化管運動を抑制させる働きを持っています。二面性があるためトリメブチンは下痢型IBSでも便秘型IBSでも効果が期待できます。
プロバイオティクス
整腸剤のことです。善玉菌と俗に言われる腸内細菌を製剤化したものです。
IBSの原因の一つとして腸内フローラのバランスの異常があると言われています。善玉菌を増やしてあげようという考え方になります。
乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などがあります。ミヤBM™、ビオスリー™、ビオフェルミン™などが代表的な薬剤です。
プロバイオティクスの餌となる物質をプレバイオティクスといい、オリゴ糖の一部や食物繊維などがあります。
プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものをシンバイオティクスといいます。
腸内フローラ調性の一つの手法といえる治療選択肢です。
高分子重合体
ポリカルボフィルカルシウム(ポリフル™、コロネル™)は下痢型IBSでは大腸通過時間の延長、排便回数の減少、便形状および腹痛の程度の改善という効果を示し、逆に便秘型IBSでは大腸通過時間の短縮、排便回数の増加、便形状および腹痛の程度の改善という効果を示す薬剤です。
漢方薬
桂枝加芍薬湯、下痢型IBSに対しては半夏瀉心湯、便秘型IBSに対しては大建中湯があります。
大腸刺激系下剤としてオンデマンド処方(頓服)として便秘型IBSに大黄を含む大黄甘草湯が使用されることがありますが、慢性的に使用すると耐性と大腸メラノーシスをきたすため注意が必要です。
抗アレルギー薬
消化管アレルギーもIBSの機序の一つと考えられています。ケトチフェン(ザジテン™)、エバスチン(エバステル™)など有効性を示した報告がありますが、日本ではIBSに対して保険収載されていません。
抗コリン薬
チキジウム(チアトン™)、ブチルスコポラミン(ブスコパン™)、チメピジウム(セスデン™)、メペンゾラート(トランコロン™)。
腹痛に対して使用されます。
口渇・便秘・心悸亢進などの副作用があります。
5-HT3拮抗薬
下痢型IBSで使用される5-HT3拮抗薬について解説します。
国内で使用できる5-HT3拮抗薬はラモセトロン(イリボー™)があります。
腹痛、腹部の不快感、便意切迫、便通回数、軟便・下痢に効果が期待できます。
止痢剤
次に止痢薬について解説します。いわゆる下痢止めです。
短期間の急性下痢症の多くは感染性腸炎ですので止痢薬を使用すると病態を悪化させたり、罹病期間を延長したりしますので安易に使用しないようにしてください。
また、下痢が止まっても腹痛が悪化することがありますので注意が必要です。
ロペラミドは麻薬と同じです。連用すると依存性や耐性が出現するため屯用使用にとどめる必要があります。
日本では、ロペラミド塩酸塩(ロペミン™)、タンニン酸アルブミン(タンナルビン™)、ベルベリン(キョウベリン™、フェロベリン™)が使用されています。
粘膜上皮機能変容薬
ルビプロストン(アミティ―ザカプセル™)とリナクロチド(リンゼス™)があります。
便秘型IBSに使用されます。新しい機序の下剤です。腸管管腔内にクロライドイオン(Cl-)の分泌を促進し、腸管内への水分分泌が増加し、便の柔軟化や腸管内輸送が促されます。それに加えてリナクロチド(リンゼス™)には内蔵知覚過敏を改善させる作用があります。
下剤
浸透圧下剤:酸化マグネシウム(マグミット™)やPEG製剤(モビコール™)。
大腸刺激系下剤:アントラキノン系のセンナ、センノシド、大黄を含む漢方があります。ジフェニルメタン系のビサコジル、ピコスルファートがあります。大腸刺激系下剤は耐性と大腸メラノーシスが問題となります。長期に使用するのではなくオンデマンド処方とすべき薬剤です。
胆汁酸トランスポーター阻害薬(IBAT阻害薬):エロビキシバット(グーフィス™)があります。回腸末端でIBATによって胆汁酸が再吸収されるのを阻害し、大腸内の胆汁酸濃度を上昇させ、大腸管腔内へのクロライドイオンの分泌を促し、水分分泌と大腸蠕動を亢進させる薬剤です。
上記機序の異なる下剤を適宜組み合わせて排便を促し症状を改善させます。